歩行記より

僕は歩く。ひたすらに、ただ。それは恐ろしいほど単調な作業だ。そしていかにも簡単で複雑である。僕はいささか、空というものに恐怖などを抱いていたから下を向いて歩いた。蟻が、僕の世界に乱入してきた。僕は必死で阻止したさ。しかし、僕の視界には溢れくるコンクリートの深みと、僅かに放つ地熱によって生まれる空気の歪みと、蟻の行列だけであった。ああ、蟻というものは黒、黒、黒。コンクリートはその黒よりも、すこし光がかった黒である。その色彩に、自らを確かに主張する生命に僕は心打たれたのだ。そして僕は歩を進める。蟻の行列を踏み潰すように歩みを進める。僕には腹立たしかったのだ。たかが1センチにも満たない蟻などが、確かな生命などとたいそれた事を、いとも簡単だと言うように成し遂げているのであるから。空は僕と同じである。空にとって僕はちっぽけな蟻に過ぎないのだ。このように踏み潰すことも他愛ない。すべての主導権は広く深い空によって握られているのだ。少しでも空の逆鱗に触れてみろ。僕はこの生意気な蟻などと同じ運命をたどる馬鹿に成り下がる。それだけは勘弁願いたいのである。だから僕はひたすら俯いて、ひたすら逃げるように、歩き続けるのだ。空よりも広く寛大な精神を以って!
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